

新しい生活様式下における糖尿病予防~予防のための食生活とお酢の活用【後編】
新しい生活様式の下で健康に過ごすために、私たちはどのようなことを心がければよいのでしょうか。食生活のポイントやその中でお酢をどのように活用していくか、糖尿病専門医の坂本昌也先生にお話を伺いました。
目次
Q1 受診機会が減少している今、日常生活の中で心がけたいのはどのようなことですか。
「自宅で過ごす時間が多くなると運動量が減少するため、自宅でもできるストレッチや、筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動などを行うことが大切です。掃除、洗濯、食事作りなどの家事も運動になります。感染症予防のためには、呼吸筋強化なども良いと思います。
運動だけでなく食事の見直しも同時に行っていただきたいですね。不適切な生活習慣を続けていると何年もかかって糖尿病、脂質異常症、高血圧などを引き起こしますが、それらが悪化するのは簡単です。生活習慣病の予防や重症化を防ぐためには、食事と運動を同時に見直すことが重要です」
Q2 食生活ではどんなことに気をつければよいですか。

「食生活で何よりも重要なのはバランスです。和食の基本的な調味料である砂糖、塩、酢、しょうゆ、みそを『さしすせそ』といいますが、『さ』や『し』が多すぎる食生活を見直し、『す』や『そ』をバランスよく摂取してほしいと思います。
野菜や穀物を多く取るような食生活にもトライしてみてください。時間短縮のために買ってきたものを食べる場合は、栄養成分表示を活用してカロリーや塩分含有量を確認することも大切です」
Q3 健康に長生きするために、お酢に期待できることは何でしょうか。
「外来で糖尿病患者さんと話す時はおろそかになってしまう点なのですが、非常に重要だと考えているのが腸と骨です。
例えば腸内フローラは糖尿病の発症や増悪にも関与しています(※1)腸の働きに関しては、ここ数年医学界でも注目が高まっています。腸は消化吸収を行っているだけではなく、インスリンの分泌にも関わっており、自然な老化によって腸の機能が落ちてくれば、健康維持に必要な栄養の吸収も難しくなってしまいます。
糖尿病の3大合併症といわれている『神経障害』『網膜症』『腎症』のうち、一般的に最も早く起こるのが『神経障害』ですが、これがあらわれると自律神経の機能も低下してきます。
そうなると自律神経に支配されているおなかの調子も整いにくくなり、多くの方で便秘や下痢が起こります。お酢を摂取すると、お酢の成分や分泌された酸により、胃や腸の動きが促されますので(※2)、その意味でもよいと考えています。
またビタミンDは、カルシウムの吸収を促し骨の維持にも重要な働きをしています。感染症の流行や冬場の寒さなどで外出が減り日光浴不足になると、体内で生成されるビタミンDが不足がちになります。
糖尿病患者さんは骨が弱くなっていることが多く、外出機会が減っている現在の状況下で運動が不足していることもあり、特に高齢の方は転倒骨折などが増える心配もあります。貝殻や骨付き鶏からカルシウムを引き出したり、カルシウムの吸収をよくする働きのあるお酢を活用することで、骨に必要なカルシウムを摂取する助けになることは期待できると思います」
Q4 坂本先生は、生活の中でどのようにお酢を取り入れていますか。

「私は朝によく黒酢を飲んでいます。医師になって5〜6年目ぐらいのころ、腸活のために飲み始めたのですが、よかった実感があるので続けています。
野菜を食べるときにバルサミコ酢を使うこともよくありますよ。日本人の糖尿病の発症には、穀物や野菜の摂取量が少なくなっていることも関与していると考えられています。お酢を使って穀物や野菜をたっぷりいいただけるメニューを皆さんにも試してもらいたいですね。
私が好きで時々食べているお酢料理は黒酢豚です。妻が長崎出身なので、家では皿うどんもよく食べますが、私は酢をかけます。妻はソースをかけていますが、お酢を勧めています(笑)。
生活習慣病の予防や、将来起こってくる老化、腸活などを考えたときにも、食生活の中にお酢を取り入れることは、楽しみながら長生きするのに役立つ可能性を秘めていると考えられます。これを機に食生活を見直してより彩り豊かなものにし、健康長寿を目指していただきたいですね。それを可能にするのは、ほんの少しの工夫なのだと思います」
参考文献:
1) 科学誌「ネイチャー」 2013年6月号
2) 「酢の機能性について」柳田藤治(日本醸造協会誌1990年85巻3号p.134-141)
撮影場所/国際医療福祉大学三田病院11階レストラン「オーブ」
撮影/梁瀬 岳志
文/木村 恵理
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