お酢健インタビューvol.07 管理栄養士・医学博士
本多京子先生

テレビや雑誌などで広く活躍されている管理栄養士で医学博士の本多京子先生に、子どもの味覚の育て方についてお話をうかがいました。

Q1 先進的な取り組みをしているフランスの味覚教育も勉強されたそうですね。

「たのしい話を聞いたらにっこりするし、悲しい話を聞いたら涙が流れる。そんなふうに食べ物が感情を呼び起こすのだと、フランスで味覚教育を始めたジャック・ピュイゼ先生がお話ししてくださいました。当時赤ちゃんだった自分の孫に、甘いもの、酸っぱいもの、苦いものを食べさせて表情を見ていると、確かに食べ物によって表情が変わるんです。ピュイゼ先生の言う通り、味覚が人の感情を呼び起こしていることがよくわかりました。

一方で、フランスの味覚教育では日本の五味にある『うま味』は重要視されず、甘味、塩味、酸味、苦味の四つが基本味になっていました。でも、温暖な気候で海に囲まれていてだしの文化がある日本では、うま味から知っていくのがよいのではないかと考えました。

それで私は、最初にかつお節と昆布でだしをとって、生まれて1週間ぐらいでまだ飲めない孫に、香りを嗅がせたんです。味覚の記憶は香りが大部分を占めているので、まずは匂いの記憶が大事なんじゃないかなと。その後、だしを薄くして飲ませ、今度はだしでにんじんやかぼちゃなど癖のない野菜を煮てつぶしたものをあげると、すんなりと全部食べていました。こうすれば、だしの味と香りが先にインプットされていますから、野菜嫌いな子にはならないだろうと思ったわけです」

Q2 子どもが「酸味」に親しめるようになるためには、どうすればよいですか。

「『うま味』は小さい時からだしを飲んで親しんでおけばおいしいと感じますし、『甘味』は脳に必要なエネルギー源だから、何も教えなくてもおいしいと感じます。では『酸味』はどうすれば好きになってくれるのかというと、『うま味』と『甘味』を足すんです。酸っぱさがやわらぐので、酸味を気にせず食べられるようになります。

お酢のツンとした香りも、うま味と組み合わせればまろやかになります。しょうゆは、塩分もありますが香りの成分は300種類も入っていて、香りを味わう調味料ともいえます。酢の物でも、しょうゆを1滴垂らすだけでぐんとおいしくなりますよ」

Q3 子どもの味覚を育てるのに適しているのは何歳ぐらいまでですか。

「一桁のうちがいいでしょうね。食育も『つ』をつけて年を数える時期に、といって九つまで。味覚を感じる味蕾(みらい)の数は小さい子どものほうが多く、年を取るにつれて減っていくといわれていますから、できるだけ早い時期がよいのではないでしょうか。

子どものころにきちんとした食習慣を身につけておけば、大人になっても好き嫌いで健康を害する可能性が少なくなります。特に女の子は大きくなると、スリムでいたい、美しい肌でいたい、といった願望が出てくるものですが、そうなるために必要な野菜などの食べ物が嫌いだと、きれいになることまでストレスになってしまいます。『おいしく食べられて、さらに体にもいい』という味覚を育てるためには、小さいころの食生活が大事です」

Q4 最近の「食」を見ていて、気になっていることはありますか。

「スーパーマーケットの棚にはカット野菜が並んでいて、自分で野菜を切ることも減っています。切られた野菜と肉や魚、合わせ調味料がセットになって、作り方の紙(レシピカード)が付いているような商品も増えました。

『楽』や『手抜き』が増えると、家庭の味が画一化されてしまいます。それからことばの想像力も衰退します。『短冊切りにする』『水にさらす』などと書いてあっても、その意味がわからない。ある日本料理の先生が『干し椎茸を戻しておいて』と助手さんに頼んだら、干し椎茸の姿が消えていたそうです。『戻す』の意味を理解できず、元の場所にしまってあったのです。

本やレシピサイトの文章を読んで料理を作ることは、ことばを知り、想像力を働かせることにもつながります。表現を豊かにするには、子どものころからいろんなものを味わい感じる体験をしていくことも大事です。結局のところ重要なのは、『食』に興味を持ち大切に思うかどうか。それが、人生すべてに影響を与えているように感じますね。食べることは生きることの基本ですから」

撮影/梁瀬岳志 取材・文/木村恵理


管理栄養士・医学博士 本多京子先生

実践女子大学家政学部食物学科卒業後、早稲田大学教育学部体育生理学教室研究員を経て、東京医科大学で医学博士号を取得。テレビや雑誌、新聞、講演などで提案するレシピや健康と栄養についてのアドバイスには定評があり、スポーツ選手に対する栄養指導の経験も豊富。食に関する著書は60冊以上。

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