スポーツでの疲労回復にお酢の有効活用を

アスリートが練習や試合で最高のパフォーマンスを発揮するために、トレーニング以上に重要なのが食事です。普段、彼らはどんな食事をとっているのでしょうか?社会人サッカークラブいわきFCのチームドクターを務める齋田良知先生と、株式会社DNSいわきFC担当栄養士である田中初紀さんに、アスリートに必要不可欠な「良い食事」とスポーツの疲労回復へのお酢の活用について伺いました。

Q1 チームのスポーツドクターや栄養士の役割とはどのようなものでしょうか。

  提供画像_いわきFCのチームドクターを務める斎田先生

斎田先生「私は整形外科医なので、選手の怪我の診断・治療を専門としています。ですが、それだけではありません。怪我をしない体づくりや、試合で最高のパフォーマンスを発揮できる体づくりをサポートすることも、スポーツドクターの重要な仕事です。

そんな選手たちの体づくりに欠かせないのは、栄養バランスの取れた食事です。スポーツドクターは選手に対して『何を』『どれだけ食べたか』をチェックします。ですが、それよりも重要なのは、『どんな栄養素』が『どれだけ体に吸収されたか』を把握することです。そのため、血液検査で栄養状態のチェックを定期的に行っています。選手たちも数値で示されると、自分の体に何がどの程度不足しているか客観的にわかり、行動変容につながりやすいようです」

田中さん「日々、体組成やコンディションを追いながら、定期的に齋田先生に出していただいた数値から、選手一人ひとりに何をどれだけ食べたらいいかをアドバイスをするのが栄養士である私の仕事です。もちろん、スポーツ選手ですから、エネルギー不足にならないことが重要です。そのため、プロサッカー選手向けの食事を毎日提供をしています。そのうえで、各人が不足している栄養素を補える食事をサポートしています」

Q2 疲労回復のためにはどのような食事が必要なのでしょうか。

田中さん「そうですね。疲労しない、そして怪我をしないために必要なのは、エネルギーを不足させないことです。まずは選手一人ひとりの体格や消費エネルギーに合った糖質、脂質、たんぱく質をバランスよく摂ることが大事です」

斎田先生「エネルギーのもととなるのはグリコーゲンです。これはトレーニングの前後に関係なく、常に筋肉中に蓄えておかなければなりません。グリコーゲンは炭水化物に含まれる糖分が分解されて変化したものなので、炭水化物を摂る必要があります。試合があるときは、普段より多めに補給しておく必要があるので、試合の3時間半~4時間前には、うどんやおにぎり、もちなどを食べてもらっています。

そして試合後やトレーニング後には30分以内に食事をとってもらいます。運動を続けることで、筋肉のたんぱく質がアミノ酸に分解されて、エネルギー源として利用されます。これが筋肉疲労の原因となるので、たんぱく質が豊富な食材を食べてもらい、アミノ酸を十分に摂らせるようにしています」

田中さん「トレーニング後の疲労回復にお酢をとるのもいいですね。酢酸と糖質を一緒にとったほうが、糖質を単体で摂った場合よりもグリコーゲンの量が増える、という実験結果が報告されています(※1)。トレーニングや試合後の疲労回復には、炭水化物(糖質)とともにお酢を使ったメニューを提供することは効果的だといえます。また、お酢には食欲増進作用がありますから、運動後に食欲がなかったり夏場で食欲が落ちているときにもぴったりです。

そのため、いわきFCの選手たちには、試合後にいなり寿司を補食として出したり、夕食に酢の物などお酢を使ったメニューを出すようにしています。いなり寿司はしっかりとお酢を効かせて、中に鶏肉やごぼうなどを入れた具だくさんの酢飯をつめると、選手たちは喜んでたくさん食べてくれます」

イメージ画像_いわきFCの選手たちは、捕食として試合後にいなり寿司を食べる

Q3 いわきFCチームではどのようにお酢を活用されていますか。

田中さん「選手たちの食堂には、ドレッシング代わりにバルサミコ酢を置いています。全体的なカロリーバランスから、ドレッシングの油から余分なカロリーをとって欲しくないからです。酢の効果で疲労回復にも役立っているはずです」

 

提供画像_酢の効能をわかりやすく伝えるホワイトボード

齋田先生「少し過去のものにはなりますが、『サッカー強豪国がお酢大量消費国』のデータ(※2)では、1位ドイツ、2位アルゼンチン、3位フランスです。全てサッカー強豪国でもあることから『お酢の消費量の多い国はサッカーも強い』という仮説を導き出していますね。ちなみに日本のお酢消費量は11位です。同じ2006年5月のFIFA世界ランキングで日本選手は18番目だったんですよね。とても興味深い話です。私も2015年にイタリアのサッカークラブACミランに帯同した経験がありますが、選手たちはバルサミコ酢やワインビネガーをよくとっていましたよ。日本選手がお酢を食生活により取り入れるいいきっかけになるかもしれません」

Q4 スポーツをするお子さんに参考になるアスリートの食事を教えてください。

提供画像_子ども達が食事をする様子を見守る栄養士の田中さん

「お子さんの食事もアスリートと変わりません。その日の活動量や体組成に合わせて食事をとることが大切です。そのうえで、主食、主菜(肉、魚)、野菜、乳製品、果物などをしっかり食べることです。同じ食材ばかりだと栄養バランスが崩れるので、多種多様の食材からまんべんなく摂っていただきたいですね。そして運動後30分くらいまでに糖質とたんぱく質の摂取を習慣にするといいと思います。

運動後に食欲が落ちてしまうことはよくありますが、そんなときはぜひお酢を活用してみてください。酸っぱい味が苦手なお子さんへは、鶏肉のさっぱり煮など煮込み料理の調味料として使ってみてはいかがでしょうか。お酢の香りが飛んで、酸っぱさをあまり感じずにおいしく食べることができると思いますよ。

そして、果物をお酢につけて炭酸で割ったドリンクは手軽にお酢がとれて、個人的に好きな方法です。氷砂糖を入れたお酢にパイナップルやキウイ、梅などを漬けておき、炭酸で割って飲んでいます。果物の甘みが加わるので、お子さんにも飲みやすくおすすめです」(田中さん)

参考文献:
1) Scandinavian Journal of Medicine &Science in Sports 11:33-37.2001
International Journal of Sports Medicine 23:218-222.2002
2) No.82 2006 年 臨時夏号「サッカー強豪国は、お酢の大量消費国!?」(ミツカン調べ)

文/高橋 裕子

監修:順天堂大学医学部 整形外科学講座准教授 齋田良知先生

順天堂大学医学部を卒業後、順天堂大学整形外科・スポーツ診療科に入局。自身もサッカー経験があることから、サッカーを中心とした豊富なスポーツドクター歴を持つ。女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)のチームドクターを務め、2016年にはイタリアのサッカークラブACミランに帯同した。2021年現在いわきFCのチームドクターを務める。

監修:栄養士 田中初紀さん

株式会社DNS所属。栄養士の資格を活かし、いわきFCのTOPチームからアカデミーの選手達の栄養管理をサポートする。