プロフィール写真_東京有明医療大学_川嶋朗先生_2

東洋医学からみた、お酢のチカラ

これまで西洋医学的観点から語られる機会の多かったお酢ですが、今回は東洋医学の五行説・五味のひとつ「酸味」として注目。東洋医学からみた「酸味」は、私たちの体や心にどのように働くのでしょうか? 東京有明医療大学の川嶋朗先生にうかがいました。

Q1 東洋医学における「気」とは何を意味しますか?気のバランスに食は影響するのでしょうか。

「東洋医学でいう『気』とは、生命活動を支えるエネルギーを意味します。『気』が常に体の中を巡ることで私たちは生命活動を維持しながら、健康に生きていると考えられています。ですから、『気』をつくれなかったり、『気』が滞ったり、逆方向に流れたりするなどしてバランスが崩れると、体調が悪くなってしまいます。まさに“『気』が病む”=“病気”になるわけです。

食は『気』のバランスに大いに影響すると考えられます。紀元前4000年ころの中国には、皇帝の食事を作ったり、管理したりしながら健康を守る『食医』という人たちがいました。ほかにも薬で内科的治療をする『疾医』、外科的治療を行う『傷医』、動物を扱う『獣医』がいましたが、最も地位が高かったのが『食医』です。古代から、東洋医学には“健康になるには、食が重要”という考え方が深く根づいています。不調を感じたときは、まずは食を見直そう、ということですね」

★編集部より

私たちが口にする食べ物や飲み物には「気」の量や流れを変えるほどの力があり、健康に大きな影響をおよぼします。「気」を整えて健康を維持するためには、単に食欲を満たすだけのものや、ダイエットに役立つものなどを選ぶのではなく、そのときの自分の体調に合う食べ物や飲み物を選ぶことが大切です。

 

Q2 五行、五臓、五志、五味という東洋医学の考え方における、お酢の役割とは何ですか?

図解_漢方医学の五行

「五行とは、森羅万象すべてを『木・火・土・金・水』の5つのマテリアルに分類した概念です。『木・火・土・金・水』は、それぞれ助け合い、また逆に抑制しながらバランスをとっています。

五行と同様に人間の体を機能によって5つに分けたものが『五臓』(肝、心、脾(ひ)、肺、腎)です。また、感情を表す『五志』(怒、喜・笑、思・慮=思考、悲・憂、恐・驚)や、味覚を表す『五味』(酸、苦、甘、辛、鹹(かん))なども五行に配当することができ、『五行』と同じ関係で互いに影響し合っています。

お酢は、酸味ですから、五味の『酸』に当たり、五臓の『肝』によく働きます。『肝』は西洋医学で言われる肝臓の働きだけでなく、血を蓄えてめぐらす働きや自律神経の働き、代謝に関係しています。同様に五志の『怒』である怒りは、西洋医学のストレスに該当します。これも『肝』と結びついており、ストレスが『肝』の働きを高ぶらせると、怒りっぽさやイライラ憂鬱、疲れとして現れます。この場合、『酸』であるお酢を摂ると、肝が上がるのを抑えられ、症状が緩和されると考えられます」

★編集部より

東洋医学的には「肝」によく働くとされている「酸」の代表格であるお酢。味そのものが臓器に影響するというのは不思議な感じがするかもしれません。でも、気分が落ち込んだときに酸味が強い柑橘系の果物や酸っぱいものを食べて気持ちをシャキッとさせたいと思ったことはありませんか? すべてがそうではないでしょうが、中には、体の声をよく聞くことで、そのとき摂るべき味がわかることもありそうです。

 

Q3 長引く自粛生活で、ストレスを抱える人や肥満になる人が増えています。東洋医学的にはどんな対策が考えられますか?

図解_巣ごもり肥満と疲労

「西洋医学からみると、ストレスは体内に活性酸素を生み出す最大の原因です。ストレスは交感神経を優位にさせるため、血管を収縮させ、血流を悪化させます。それで高血圧や高血糖、血液ドロドロ、体温低下の状態が続けば、代謝や免疫力の低下にもつながるでしょう。また、長引く自粛生活による運動不足とストレスによる過食で、肥満になる人が増えていますね(※1)。肥満も多くの病気のハイリスク要因なので放置できません。さらにストレスによる不眠などで肉体的、精神的疲労がたまり、うつや認知症、児童虐待、DV、自殺(※2)が増加しているのも問題です。

対策として、日光浴をする、好きなことを見つけて楽しむ、家事に運動を組み込む(つま先立ちで料理をするなど)、十分な睡眠をとる、栄養バランスのよい食事をとる、体を温めるなどが考えられます。すぐにできることなので、ぜひ実践していただけたらと思います。

東洋医学でいえば、『肝』が弱くなることで生じるストレスや肥満には『酸』が役立つと考えられています。その『酸』の代表であるお酢は、生化学的にも、血管を拡張させて血圧を下げる、食後の血糖値の上昇を緩やかにする、内臓脂肪を減らすという効果が実証されています(※3)(※4)(※5)。お酢は多くの家庭に常備されている調味料であり、手軽に摂れるものですから、自粛生活での健康維持に大いに利用できるでしょう」

★編集部より

東洋医学で伝えられてきた食の効果は、西洋医学では立証されていないものが数多くあります。でも、すべて何千年もの歴史の中で繰り返された体験を通して「効果あり」と認められてきたもの。東洋医学的にお酢は、ストレスや肥満に役立つと考えられてきました。西洋医学、東洋医学の異なる見地から、それぞれ効果が認められているお酢は、コロナ終息以降も末永く健康維持に役立ちそうです。

 

Q4 東洋医学からみた、おすすめのお酢の摂り方を教えてください。

写真_東京有明医療大学_川嶋朗先生_1

「『肝』の『気』が活発に働くのは夜中の1~3時ごろとされているので、寝る前や目覚めたときにお酢を摂って『肝』を補うといいでしょう。また五行では春が『肝』に配当され、影響を受けやすい季節です。強い風が吹き荒れ、『風邪(ふうじゃ)』という邪気が体の中に入り込み、体調を崩しやすくなります。『肝』の『気』が春の陽気に刺激されて上がり過ぎ、イライラしやすい、眠れない、気分が重いといった症状が出ることがあります。春は意識してお酢を摂り、肝の気の上がり過ぎを抑えるのも、ひとつの方法といえるでしょう。

また、ストレスを感じたときに甘いものを摂り過ぎる人も、酸でバランスをとるのがおすすめです。甘みの強いものは一時的に満足感が得られますが、血糖値の乱高下を招きやすく、結果として体によくない影響を及ぼします。ただし、お酢を多く摂り過ぎると抑制する関係にある『脾』(胃)を傷めるので、摂り過ぎには注意してください。

現代の日本人の多くは、“自分は健康ではない”と思っているのに、食事や運動、睡眠などの生活習慣を改めて、自ら健康になろうとする人は少ないようです。ちょっとした不調は食の見直しで十分改善できます。病名がつく前に改善できれば、病院も薬も必要ありません。“自分の健康は自分で守る”という意識をもち、まずは食で健康を取り戻すことから始めてはどうでしょう」

★編集部より

東洋医学からみたお酢を摂るおすすめのタイミングは、朝目覚めたときと夜寝る前の1日2回。たとえば、朝食や夕食のメニューに酢の物などお酢を使ったものを加えたり、朝にお酢を混ぜたヨーグルトを食べたり、寝る前にお酢のホットドリンクなどを摂ったりするのも方法です。気分がイライラしがちな春や、ストレスを感じたときには、炭酸で割ったお酢ドリンクなどを飲んで気持ちを落ち着かせてみるのはいかがでしょう。

イメージ写真_お酢を入れたヨーグルト

ここまで東洋医学からみたお酢の効果を見てきましたが、いざ食を見直そうというときに何をしたらいいのか迷ったら、とりあえずお酢を摂る習慣づくりから取り組んでみるのもいいかもしれません。

参考文献:
1)「ステイホームによる体重の変化 2020年2月~5月」
2)「自殺の統計」厚生労働省
3)「食酢配合飲料の正常高値血圧者および軽症高血圧者に対する降圧効果」(健康・栄養食品研究 6(1):51-68 2003)
4)「健常な女性における食酢の食後血糖値上昇抑制効果」(日本臨床栄養学会雑誌 27:321-325 2006)
5)「Vinegar intake reduces body weight, body fat mass, and serum triglyceride levels in obese Japanese subjects」(Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 73(8):1837-1843 2009)

文/高橋 裕子
撮影/近藤沙菜
監修/お酢でおいしさと健康を考える会 編集部

東京有明医療大学 保健医療学部鍼灸学科 教授 川嶋朗先生

1957年東京都生まれ。北海道大学医学部卒業後、東京女子医科大学入局。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院、東京女子医科大学附属青山自然医療研究所クリニック所長などを経て2014年4月より現職。近代西洋医学と代替・相補・伝統医療を統合した医療をおこない、生活の質を尊重した診療姿勢には、治療を受けた多くの患者からも共感と信頼が寄せられている。ベストセラーとなった『心もからだも「冷え」が万病のもと』(集英社新書)など著書多数。

 

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