イメージ写真_お酢

食酢の摂取で閉経後の女性の血流を促進することが明らかに

2010年、酢の摂取には、血管拡張の促進が期待できるとする研究が、公益社団法人日本農芸化学会発行の英文学術誌『Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry』に発表されました。この研究では、食酢の主成分である酢酸に、血管内皮細胞での一酸化窒素合成酵素活性を高める作用があることが見出されたほか、食酢の摂取が閉経後の女性の血流を促進したことが示されています。

肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病などの危険因子と動脈硬化との結びつきを評価するものとして、血管内皮細胞(※)の機能(血管内皮機能)が注目されており、この機能の客観的な評価が重要になってきています。

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※血管内皮細胞とは
全身をめぐる血管の最内層にある細胞のこと。血液と組織が、酸素や栄養素などの交換を行う場として働くほか、さまざまな生理活性物資を産生し、組織や臓器の機能を維持する働きを持っている。
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画像_血管の構造を説明したイラスト

血管内皮機能を、生体を傷つけずに検査する方法のひとつとして、近年、「FMD(上腕動脈内皮依存性血管拡張反応 brachialartery flow-mediated vasodilatation)が注目されています(※1)。

FMDとは、上腕動脈に充分な圧力を与えて血液を止めた後、開放し、上腕動脈の拡張率を計測する方法です。

血管内皮に対し、血流増加による力(ずり応力)が働くと、血管内皮では、その力の強さに応じて動脈血管を構成している血管平滑筋を弛緩させる物質、すなわち「内皮依存性血管拡張物質」が作り出されます。

FMDで計測された数値は、血管内皮から作り出される血管内皮依存性の拡張物質の産生量と、密接に関係していることがわかっています。

また、この“内皮依存性の血管拡張物質”として知られる物質のひとつに、NO(一酸化窒素)があります。

一方、長年使用されてきたFBF(forearm blood flow;前腕血流量)という指標は、上で示したFMDと正の相関を示す結果も得られてきています。

2010年に実施された、研究者榊原氏らによる細胞を用いた実験では、食酢の主成分である酢酸に、血管内皮細胞での一酸化窒素合成酵素活性を高める作用があることが見出されました。

実験は、HUVECs(ヒト臍帯静脈内皮細胞)(内皮細胞研究で一般的に使用されている細胞)を用い、イムノブロット解析(特定のタンパク質を検出する方法)によって、eNOS(内皮一酸化窒素合成酵素)に対する酢酸の影響を調査するというものでした(※2)。

実験の結果、HUVECsは、酢酸との接触が5〜20分(初期段階)と2〜4時間(後期段階)の両方の段階で、eNOSをリン酸化しました。

さらに、両方の段階での酢酸によるeNOSのリン酸化の程度は、酢酸の量が増えれば増えるほど、増加。リン酸化の初期段階と後期段階は、それぞれ20分と4時間でピークに達しました。

一方、AMPK(※)(AMP活性化プロテインキナーゼ)は、2〜4時間でリン酸化されましたが、1時間までの初期段階では認められませんでした。

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※AMPKとは
細胞の中で、生命維持のために重要な働きを担っている酵素のひとつ。細胞内でエネルギーが不足した際、それを察知し、エネルギー生産に関わる酵素のスイッチをONにする作用を持つ。
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これらの結果は、酢酸による後期でのeNOSのリン酸化が、AMPK活性化に依存していることを示しています。

酢酸が体内でアセチルCoAシンターゼによって代謝されると、AMP(アデノシンーリン酸)が生成され、その結果、肝細胞で酢酸がAMPKを活性化することが報告されていることから、この内皮細胞の後期段階での作用は、酢酸が代謝された結果と考えられます。

いずれにしろ、eNOSのリン酸化、すなわちAMPKの活性化が、酢酸によって引き起こされることが、明確に示されました。

 

画像_血流が増大する工程について説明したイラスト

上記の研究では、閉経後の日本人女性を対象とした試験(※2)も合わせて実施されており、食酢に血流を促進させる機能があることも報告されています。

試験の被験者は、健康ではあるが寒さに過度に敏感な閉経後の女性。女性ホルモンの不均衡によって血管拡張が鈍化している状態と推測される方達でした。

女性ホルモンの一種・エストロゲンは、eNOSの活性を誘導することにより、NO産生を増加させ、動脈の血管の拡張性に好ましい効果をもたらします。一方、エストロゲンが欠乏する閉経後は、動脈のNO活性の有意な低下があることが報告されています。

この試験は「二重盲検クロスオーバー試験(※)」という方式で行われました。

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※二重盲検クロスオーバー試験とは
「二重盲検試験」と「クロスオーバー試験」双方の特徴を持つ試験。二重盲検試験とは、治験実施に関わるすべての人間が、誰にどんな薬が投与されるのかを知らずに行われる試験のこと。クロスオーバー試験とは、対象を2群に分け、それぞれに異なる薬の投与などを行い、評価した後に、各群の治療法を交換し、再び評価する試験法。
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参加被験者は12名で3名ずつ4グループに分かれました。まずは3日続けて、毎日朝食時に飲料を飲んでもらいました。

飲料は、酢酸をほとんど含まない「偽の飲料(プラセボ飲料)」と「食酢飲料」の二種類を用意。プラセボ飲料では、米酢の凍結乾燥品と乳酸を用いて調製されたものを使用。一方、食酢飲料の原材料には、「米酢」「純玄米黒酢」「古代米の一種である黒米から作られた黒酢」の3種が使用されました。なお、被験者はプラセボとサンプル1種を飲みましたが、この間、10日間空けてもらう形としました。

容量はそれぞれ100mL。食酢飲料には15mLの各食酢(4〜5%(W/V)の酢酸を含有)が含まれていましたが、栄養成分組成(カロリー、脂質、たんぱく質、炭水化物)に関しては、飲料間に違いはありませんでした。

4日目には被験者に、前日までと同じ飲料を摂取してもらったのち、105分間部屋にとどまってもらい、その後、前腕を用いてレチスモグラフで血流の測定を行いました。

まずは基礎血流量として、動脈FBFを測定。次に前腕を200mmHgの圧力で5分間圧縮し、解除し、その後5分間、15秒ごとに測定。その数値は、基礎血流量に対する最大の血流量の比率で示されました。

その結果、食酢を飲んでいたすべての被験者は、プラセボ摂取していた被験者と比較して、1.5倍以上、血流量の増加が認められました。このことから、食酢の摂取が閉経後の女性の血流を促進したことが明らかとなっています。

食酢を摂取した後、ヒトの血中酢酸レベルは50 μmol / Lを超えるとされますが、この研究の結果では、HUVECsでのeNOSのリン酸化は、50〜200 μmol /Lの酢酸濃度で発生していました。

したがって、食酢のこの血流促進効果は、部分的にしろ、酢酸で誘導されるeNOSの活性化により生じている可能性があるといえるでしょう。

この研究において、4日間の食酢摂取により血流が向上する血管拡張が生じたことから、急性の降圧効果がみられた場合の食酢の働きには、この血管拡張の促進が起因している可能性があります。

高めの血圧が正常に近づく以外の血管でのNO発生を促進する直接的な意義として、一般的には、血管が拡張しやすくなり、血液の流れがよくなることや、その結果、血管内の傷の修復が早まるほか、血栓ができにくくなる可能性が挙げられます。

今後、食酢の循環器系への作用が、より詳細に研究されることが期待されます。


引用文献
1)高瀬凡平;FMDによる血管内皮機能評価、心臓、46(10), 1324-1329 (2014)
2)Syoji Sakakibara, Ryuichiro Murakami, Mikio Takahashi, Takashi Fushimi, Toyoaki Murohara, Mikiya Kishi, Yoshitaka Kajimoto, Masafumi Kitakaze and Takayuki Kaga; Vinegar Intake Enhances Flow-Mediated Vasodilation via Upregulation of Endothelial Nitric Oxide Synthase Activity, Biosci.Biotechnol.Biochem., 74(5), 1055-1061 (2010)

 

 

監修:広島修道大学 健康科学部 教授 多山賢二先生

1980年山口大学大学院農学研究科農芸化学専攻修士課程修了、1993年東京大学大学院にて博士号(農学)を取得。食品企業の研究員、短期大学の教授を経て、現職。主な研究テーマは酢酸菌の応用や食材の物性解析で、食酢および酢酸菌に関する著書・論文・特許・学会発表は多数。2007年日本農芸化学会技術賞受賞。NHK―BSプレミアムなどメディアでも活躍中。

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